写真家の太田順一さんは、「ハンセン病療養所 隔離の90年」「ハンセン病療養所百年の居場所」(解放出版社)という、とてもいい写真集を出されています。ごぞんじですか。
2005年に出版された岩波ジュニア新書の1冊に、その太田さんの「ぼく写真家になる」という本があります。
その中に次のような文章があります。
「一年間の取材をまとめて写真集『ハンセン病療養所 隔離の90年』が1999年に出た。でもそのとき、ぼくには今一つ満たされた思いがしなかった。いつもなら味わえるはずの仕事を成しとげたという手ごたえが希薄なのだ。理由は自分でもわかっていた。ハンセン病療養所をのぞいてみて、記録して残しておかなければならないことがまだまだいっぱいあると気づいたからだ。それに、療養所が終焉を迎えているという現実があった。
・・・
ごく近い将来、日本からハンセン病療養所が消滅してしまう、そのことの実感がぼくを二度目の療養所めぐりへと急がせた。2001年から翌年にかけて再び全国を旅し、前の写真集の続編となる『ハンセン病療養所 百年の居場所』を2001年に出した。前回行けなかった私立二園の写真も加えることができた。
『隔離の90年』では、〈人〉を中心にして療養所の日々の暮らしを撮ったが、『百年の居場所』では〈人〉は一切写さなかった。写真集に出てくるのは〈もの〉だけ。やがて消えるであろう療養所の風景や建物、それに昔の遺物-。そういったものいわぬ〈もの〉に療養所の歴史を語らせたいという思いだったのだが、なかでもぼくが特に力を入れて撮ったものがあった。それは入園者の部屋だ。
寮舎だからアパートのように画一的で、どの部屋も決まった間取り、決まった造りになっている。でも一歩なかに入ると、住んでいる人の個性や人柄が、棚の上の置物や吊された服、壁の飾りなどに反映されていて、どれひとつとして同じ部屋はない。まさに百人百様の部屋なのだ。そんな部屋の写真を通して、いろんな入園者がいるということを描きたかった。
いろんな人がいるなあ-。二度にわたる療養所めぐりを通じてぼくがいちばん感じたことは、このごく当たり前のことだった。・・・・」
いま日本のハンセン病療養所の将来のあり方が、切実な課題として、わたしたちに突きつけられています。
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