私がもう一人の弁護士とともに、岡山地裁、広島高裁岡山支部、最高裁と争っていた、ある傷害致死事件(否認事件)。
この事件において、弁護側が行った私的鑑定の費用の支払いを法テラスが拒否した件について、岡山弁護士会が、2009年(平成21年)8月24日付で、日本司法支援センター(法テラス)の国選弁護の報酬及び費用の支払いに関する会長声明を発表しました。
http://www.okaben.or.jp/iken/20090824.htm
(会長声明)
本年5月21日から従来からの国選弁護制度に加えて、被疑者国選弁護制度の対象事件が大幅に拡大し、当会を含む全国の多くの弁護士が、国選弁護人として憲法で保障された被疑者及び被告人の権利擁護のために全力を尽くしているところである。
2006年10月2日には、日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)が、国民の司法へのアクセスを保障し、「法の支配」を社会の隅々にまで行き渡らせ、自由で公正な社会を形成することを目的として、その業務を開始した。
刑事事件の国選弁護人に対する報酬及び費用に関しては、事件終了後、国選弁護人が法テラスへ報酬及び費用請求を行い、法テラスにおいて、国選弁護人に対する報酬及び費用の支払いの可否及びその額を決定し国選弁護人へ通知するというシステムとなっている。
これに関連して、先般、捜査段階から一貫して被告人が否認している傷害致死事件の控訴審において弁護を担当していた国選弁護人(当会所属弁護士)が、法医学者に依頼して作成させた私的鑑定書の作成費用及び同鑑定書と一体となったレントゲン写真複写やカルテ取寄等の費用の支払いを法テラスに求めたところ、法テラスが、支払い項目にないという理由により支払いを拒否するという事案が生じた。同事案にあっては、検察官からは複数の鑑定が提出され証拠採用されており、弁護人提出の上記私的鑑定書も証拠採用されている。
刑事事件において、真実を発見するために、専門家の鑑定を必要とすることはしばしば生じる。本件におけるように否認事件で、検察側から複数の鑑定が提出されているような場合には、弁護側において検察側鑑定書の信用性を弾劾するために、専門家による私的鑑定書を提出する必要性は一層高まるといえる。
しかるに、私的鑑定費用等について支払いがなされないのでは、その依頼を断念せざるを得ないことになり、国選弁護における弁護活動が著しく制約されることは自明である。その結果、真実発見が困難になることはもとより、憲法及び刑事訴訟法で保障された「弁護を受ける権利」の保障が不十分なものとなりかねないのであって、誠に憂慮すべきことである。
当会は、私的鑑定費用等について、国選弁護に伴う費用として支払うことが可能となるよう法テラスにおける運用の適正な見直しないし所要の法令等を改正する手続きを速やかになすよう関係方面に対し強く求めるものである。
2009(平成21)年8月24日 岡山弁護士会 会長 東 隆司
法テラスの支払い項目では、刑事記録の謄写費用や遠距離接見等交通費・出張旅費が定められていますが、これも一部しか支払われません。
それ以外には、訴訟準備費用として、①診断書作成料、②23条照会の利用料、③判決書謄本の交付手数料につき、総額3万円を限度として実費が支給されるだけです。
しかし、これでは、国選弁護人が、被告人のための十分な弁護活動ができないことは明らかです。無罪、冤罪を争う事件で、国選弁護人が、法医学者等に私的鑑定書の依頼作成し、裁判所において弁護側証拠として証拠採用されたとしても、一切、その費用は支払わないというのが、現在の日本司法支援センターの見解です。
従って、国選弁護人は、鑑定費用等については持ち出しを覚悟して、被告人のために、弁護活動を尽くすか、それともそうした立証活動を断念するかの二者択一を迫られます。その結果、国選弁護人が後者を選択した場合には、経済力に乏しく私選弁護人を選任できない被告人は、憲法や刑事訴訟法で保障されている「弁護を受ける権利」を実質的に奪われるに等しい結果となることが予想されます。
なぜ、国選弁護人の立証活動のための実費として、弁護士法23条の照会利用料と診断書作成料に限定するという不合理な支払い項目ができあがったのか、不思議でなりません。日弁連や各単位会等においても、早急にこのような法テラスの支払い項目の定めが改善されるように、取り組む必要があると考えます。
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